PFAPA症候群 (周期性発熱)について

 

 概念・頻度・遺伝性

 PFAPA症候群は、周期性発熱、アフタ性口内炎、頸部リンパ節炎、咽頭炎を主症状とする疾患です。患者さんの多くは5歳以下の乳幼児期に発症し、日本での平均発症年齢は3.2才、成人発症は稀と言われてきましたが近年では成人で発症する症例や思春期を過ぎても自然寛解しない症例も見つかっています。

日本では2006年までに20例が報告されています。周期性発熱症候群の中では最も患者数が多いと推測されていますが正確な疾患頻度はよくわかっていません。また、遺伝性はないとされています。

原因

 原因遺伝子は解明されておらず、病気の原因は詳しくは分かっていませんが、Th1へシフトした免疫異常、すなわち、細胞性免疫が活性化することが示唆されています。また、発作時期に関わらず、IL-6、IFN-γ、TNF-α、IL-1β、IL-12p70などの炎症を引き起こすサイトカインが高値を示し、炎症を抑制するサイトカインであるIL-4は低値を示し、サイトカイン調節機能異常が原因であると考えられています。

症状

1:発熱発作 

 患者さんの全例に認められます。39~40℃以上の発熱が突然出現し、平均5日間(3~6日)続きます。発熱の間隔は平均24日(3~8週)で、月経周期の様な規則性がみられます。 

2:アフタ性口内炎・口腔病変 

 患者さんの50~70%に認められます。頬の粘膜や舌の表面に、軽い痛みを伴う口内炎がたくさんできます。

3:頸部リンパ節炎 

 左右対称性で小指頭大~母指頭大の非化膿性リンパ節炎が、薬70~80%で認められます。 

 50~70%で圧痛を伴います。

4:咽頭痛・咽頭炎 

 患者さんの60~90%で認められ、発熱発作の1~2日前に症状が出現することが多いです。

5:扁桃炎 

 患者さんの50~75%に認められます。反復性扁桃腺炎と診断され、扁桃摘出術を受けた小児の20~30%がPFAPAであったとの報告があります。 

6:倦怠感

 発熱発作期には多くの場合で悪感、頭痛、食欲不振、生あくび、強い倦怠感が発生し、重篤感があります。7:その他

 頭痛、関節痛、腹痛、嘔吐、下痢、咳、血尿、発疹など多彩な症状が現れます。呼吸器症状、眼病変、心血管系病変、生殖器病変は一般的にPFAPAでは認められません(もしこれらの症状が出た時は他の自己炎症疾患との識別が必要になります)

 合併症と予後

多くの症例では、時間の経過とともに発熱間隔が広がり、随伴症状は軽くなり、後遺症を残すことなく4~8年で自然治癒します。成長と精神運動発達も正常です。

診断
発熱発作時に、炎症を反映して、好中球有意の白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇、血清アミロイド(SAA)上昇などがみられますが、これらの検査所見はPFAPAに特徴的なものではありません。また画像診断による診断もできません。症状からPFAPA症候群を疑い、さらに、周期性好中球減少症、反復性扁桃腺炎などの感染症、その他の自己炎症疾患、ベーチェット病などの病気と鑑別する必要があります。

診断基準には1994年発表「Thomasの診断基準」が主に使われていますが、2005年に発表された「Paderの診断基準」はステロイドへの反応性を含めた臨床的な内容となっており、この2つを併用して除外診断と確定診断を行っていきます。

 

【 Thomasの診断基準 】

Ⅰ:5歳までに発症する、周期的に繰り返す発熱

Ⅱ:上気道炎症状を欠き次のうち少なくとも一つの炎症所見を有する

 a)アフタ性口内炎

 b)頸部リンパ節炎

 c)咽頭炎

Ⅲ:周期性好中球減少症を除外できる

Ⅳ:間欠期には全く症状を示さない

Ⅴ:正常な成長、精神運動発達 

※「Thomasの診断基準(1994年発表)」に記載があるようにほとんどの場合5歳以下で発症するが、発症の平均年齢は3~4歳で女児よりも男児にやや多くなっている(50~60%)

 

【 Paderの診断基準 】

1:毎月の発熱(いかなる年齢においても周期性の発熱がある)

2:滲出性扁桃炎かつ咽頭培養で陰性

3:頸部リンパ節炎

4:ときにアフタ性口内炎

5:発作間欠期は完全に無症状

6:ステロイドの単回使用(プレドニゾロン60mg)で速やかに改善する

※ステロイドの投与量については年齢ごと、体重ごとの考慮が必要です

 

PFAPA診断に必要な精査内容と検査項目

 

基本は「不明熱の一般検索」に準じますが、他疾患との識別に必要な検査も同時に行います。

 

1:十分な問診(発熱期間、随伴症状、家族歴、出生地等)

2:咽頭培養検査

3:血液検査

 a) 血算、白血球分画

 b) 生化学一般、赤沈

 c)CRP、血清アミロイドA

 d)免疫機能(IgG、A、M、D、CD4/8)

 e)補対価

 f)抗核抗体・各種自己抗体

 g) プロカルシトニン

 h)各種サイトカイン

 i)血清亜鉛

4:ウイルス検査(EBウイルス、アデノウイルス)

5:検尿・検便

6:各種画像検査

7:他疾患との識別が必要な場合には遺伝子検査

 

識別が必要な疾患

1:他の自己炎症疾患との識別(FMF、TRAPS、HIDSとの識別が必要)

2:周期性好中球減少症

3:全身型若年性突発性関節炎

4:ベーチェット病

5:その他(クローン病、感染症、習慣性扁桃腺炎など)

 

 

a_blt003.gif 治療薬
確定した治療法はありませんが、本来は予後良好な病気なので発熱を抑制・短縮させ、QOLを保つための治療が原則となります
1:H2ブロッカー

a)ガスター

最近では多くの医療機関でガスターが使われています。市販のものでも同じ効果があるとされています。

b) タガメット(一般名:シメチジン)

H2ブロッカーに分類される薬で、本来は胃薬として使用されます。タガメットには、Th1へ過剰に傾いた免疫をTh2へ戻すような免疫調節作用があり、PFAPA症候群の約60%に効果があります。15~20mg/kg/日を分2~3で予防的に投与します。

 

2:副腎皮質ステロイド(プレドニン) 

発熱発作の初期にプレドニンを0.5~1mg/kgを1回ないし2回投与すると、12~24時間以内に症状は劇的に改善します。プレドニンが良く効くかどうかは、他の自己炎症疾患と区別をするうえで大きな参考になります。

 

3:非ステロイド性抗炎症薬 

アスピリンやイブプロフェンを使用しますが、副腎皮質ステロイド程の効果はありません。 

 

4:コルヒチン 

家族性地中海熱や痛風に使われる薬ですが、PFAPAに対しても有効性のある症例が見つかっています。

5:扁桃摘出術、アデノイド切除術 

上で述べた薬を使用しても症状が改善しない場合に、外科的に喉の奥にある扁桃腺やアデノイドを切り取ります。患者さんの60%以上に効果がありますが、しばしば再発することもあり「完全な治療法」とはいえません。

 

他にも喘息薬「シングレア」「ファモチジン」「オノン」、漢方(小建中湯)、γグロブリンなどが有効だった症例もありますが何が効くかは個人差も大きいようです。また各種抗菌剤、抗生剤は多くの場合効果が認められません。

 

PFAPA症候群において重要になってくるのは「健やかな成長の確認」です。

 今までは治療として扁桃腺摘出手術が行われることが多くありましたが、成長後の影響を考慮し現在はあまり扁桃腺摘出術は行われない傾向になりつつあります。

また非常にステロイドの効果が高い病気ですが、最初から安易に使用してしまう事により他の疾患との識別を困難にしてしまう事があります。他の疾患との識別し正確な診断を得るためにもステロイドの使うタイミングにも気を付ける必要があります。

 

寛解年齢の目安

 一定年齢を過ぎると寛解すると言われているPFAPA症候群ですが、10歳を目安に寛解・または寛解に近づいていくといった傾向があります。しかし思春期を迎えても症状が長引く症例、成人での発症例もあり、現時点でははっきりとした寛解の目安時期を示す事は困難となっています。

 

他疾患との識別

 症状が似ているため「PFAPAと家族性地中海熱」「PFAPAとHIDS」のように専門医でも識別が難しい症例があります。PFAPAと診断されていた症例が年を重ねて実は他の自己炎症疾患だったというケースも多く見つかっているので、経過確認が重要となります。

またPFAPA患者さんの中にはFMFの原因遺伝子であるMEFV遺伝子が見つかる場合、CAPSの原因遺伝子であるNRLP3が見つかる場合もあり、他の自己炎症疾患と確実なの識別のためにはやはり遺伝子検査が必要になります。

PFAPA患者さんの場合は当事者がまだ小さなお子さんの為、遺伝子検査の決断はご家族がする事になると思います。遺伝子検査は患者本人だけでなく家族、親族にも影響を及ぼす可能性もある事を十分考慮して検査に臨む必要があります。遺伝子検査を受ける事が患者本人のためであっても、ご家族に精神的苦痛を生じる場合もあるので主治医とよく相談の上で遺伝子検査を受けるようにしてください。

 

ステロイドの服用について

 自己炎症疾患の中でもPFAPAは乳幼児に多い疾患の為、ご家族は治療薬とステロイドを選択する事をためらいがちです。ステロイドは強い抗炎症作用を持つ薬なので劇的な効果がある症例が多いです。効果はわかっていても、まだまだ小さい愛する我が子にステロイドを使うのをためらってしまうのは仕方のない事だと思います。まだ意思表示の出来ないお子さんに変わって治療の選択をしていくのはご家族、ご両親です。PFAPAの治療に使用するステロイドの量は少量ですし、発作時のみの使用なので大きな副作用の心配はないとされていますが、それでもやはりの薬に対する不安が強い時は先に他の薬を試してみてはいかがでしょうか?

ステロイドではなく他の薬で寛解するお子さんもいますので、不安な気持ちを抱えたまま治療に臨むのではなくどうぞ主治医に相談してみてください。

 

ステロイド使用時の注意点

 PFAPA患者にとって、ステロイドは確かに絶大な効果があると言われています。しかし完全に抑制できないケース、また発熱期間が短縮したけれど次の発作までの期間もまた短くなるという傾向もあります。どのくらいの量でどの期間発熱が抑制できるか、どのタイミングで服用すれば効果的か等の記録を残し、主治医と検証を行う事で今後の治療に活かす事ができます。ご家族・お母さんは、発熱中のお子さんを前に何もできないと焦るのではなくどうか落ち着いて記録を残してあげてください。

お子様の経過、発作時の様子を一番詳しく知っているのは主治医ではなくいつもそばにいるお母さんやご家族です。発熱前の兆候から始まり、服用のタイミング、体温の動向、症状の経緯などできるだけ記録を残して主治医に報告、相談してみてください。パターン・傾向がわかれば効果的な服用方法や対応が見つかるはずです。

 

変化しつつあるPFAPA症候群の概念

 「PFAPA症候群(周期性発熱症候群)は、非遺伝性の周期性発熱を主症状とする疾患である」これはが今まで考えられてきた概念です。しかし最近ではPFAPAに対し、一部の研究者の間では新たな見解が言われ始めており「PFAPAは他の自己炎症や疾患との識別・疾患の診断がつかない場合の暫定的な病名」と考える先生達もいます。

発症から間もなくは症状が揃わなかったり、特徴的な症状や所見が出てこない事もあるため、とても診断が難しくこのように症状が揃うまでの仮の病名としてPFAPAと診断するケースも実際あります。寛解目安の10歳を過ぎでも症状が継続したり、発症年齢が遅い、また関節痛など経過とともに症状が追加される時は他疾患との識別を再考慮したほうがいい場合もあります。その場合、FMFやHIDS等の他の自己炎症疾患との識別に必要になるのはやはり遺伝子検査になります。遺伝子検査は疾患により検査可能な医療機関が決まっています(詳しくは「PIDJ」HPをご確認ください)

 

PFAPAと診断されていたけれど実は他疾患だった等の事もあります。正確な診断の為にもご家族の皆様も遺伝子検査に関して知っておくといいと思います。